恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「素敵なお部屋にお住まいなんですね」
「そうでもないよ」


一樹は謙遜するが、これが素敵でなかったら、梓の自宅はどうなるのか。
リビングを見渡して、梓はふと見知ったものを発見した。


「これ、社長の……じゃなくて、一樹さんのところにあったんですね」
「今、〝社長〟って言ったな?」
「それはその、頭が仕事モードに切り替わったんです。見逃してください」


今取り組んでいる、式場の立体模型が部屋の片隅に置かれていたのだ。仕事のことを考えると、自然と〝一樹〟は〝社長〟になるらしい。


「そうはいかないよ。約束は約束だからね」


一樹は意味ありげに微笑むと、数歩後ずさった梓を捕まえ、腰を引き寄せた。


「か、一樹さ――んっ……」


塞がれた唇の端から息が漏れる。すると、それすら逃さないというように唇ごと食まれ、梓は一樹のシャツをぎゅっと掴んだ。

(ちょっ、ちょっと待って……!)

< 126 / 301 >

この作品をシェア

pagetop