恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

これまでのキスは触れるだけだった。それも瞬きをするほどの短さ。
今しているものは、それとはどこか違う。唇が食べられるのではないかとドキドキしているうちに、一樹の舌が唇を割ろうと試みてきた。


「んんっ……かず……っ」


言葉を発した隙を突き、舌が一瞬入り込んできたが、なにを思ったか引き返していく。
どうしたのかと思って目を開ききるうちに、一樹はそっと梓を解放した。


「悪い。調子に乗りすぎた」


梓の髪をさらりと撫で、一樹が軽く微笑む。

本気のキスは、本物の恋人とだけ。多香子の前で恋人のふりをしたからといって、調子に乗るなよ。
態度でそう示されたような気がして、梓は胸が苦しくなった。

(これ以上、好きになっちゃダメ。……好きになったらダメ)

自分の心に強く言い聞かせる。
静かに深く深呼吸をして、梓はなんとか気持ちを落ち着かせた。


「あ、あの、これって例の式場の立体模型ですよね」

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