恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

たしかデザイン企画部の一角に、ほかの模型と一緒に並んでいたはず。


「今度、現場の打ち合わせに持っていくことになってるんだ。自宅から直で行こうと思ってね」
「そうだったんですね」


そう言いながら梓は腰をかがませ、しばらくその模型に見入っていた。


「梓は、なに飲む?」
「いえ、おかまいなく」
「遠慮するなって。じゃ、コーヒーでいいか?」


一樹に聞かれ、「お願いします」とそのままバックしてソファに腰を下ろすと、なにかが梓のお尻にあたる。

なんだろうかと思って見てみると、それは金属製のト音記号と八分音符をかたどったものだった。手に取った弾みで涼しげな金属音が響くが、ふたつはつながった状態。

(なんだろう? キーホルダー? それにしてはストラップ部分がないし……)

顔の前でぶら下げて梓が不思議そうにしていると、一樹がコーヒーを入れて戻ってきた。


「一樹さん、これはなんでしょうか?」
「あぁ、それは知恵の輪」
「知恵の輪ですか」

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