恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
全部で二十万弱にもなる。いくらなんでもそんなに高い買い物をさせていいとは思えない。
映画館だってプレミアムシートだから、値が張ったはずだ。
「理由が必要ってわけか」
一樹は腕組みをして考え始めたかと思えば、すぐに顔をパッと明るくさせた。
「婚約者のふりをしてくれたお礼にしよう」
「それは私自身も納得しているので、お礼は必要ないです」
それをお礼として受け取ったら、梓はなにもかもが終わるような気がした。
婚約者のふりを売買したのも同然になる。それだけはしたくなかった。
「本当に申し訳ありません」
梓は深く頭を下げ、断固として拒絶の姿勢を貫く。
「……わかったよ」
一樹は大きなため息をつき、しぶしぶといった感じに納得した。
「花は受け取ってくれるだろう?」
「はい、喜んでいただきます」
梓は花束を大事に抱え、もう一度「ありがとうございます」と頭を下げた。