恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
【たまには外で夕飯でも食べない?】
梓のスマートフォンにそんなメッセージが母の陽子から届いたのは、絵梨とお弁当を食べ、デザイン企画部に戻ったときのことだった。
今日、小料理屋『忍び草』は定休日だが、こうして誘われるのはどれくらいぶりか。
珍しいなと思いつつ、梓が【了解】と返信すると、すぐにレストランの場所と時間が送られてきた。
「ル・シェルブルの『山口楼』?」
思わず口に出すと、絵梨が向かいの席から「ル・シェルブルがどうしたんですか?」と声をかけてきた。
「母から今夜一緒に外で食べましょって誘われたの」
それが高級ホテルのレストランのため、梓は面食らったのだ。
三世代にわたって慎ましく生活してきた梓たち家族には、縁遠い場所。そこのラウンジには一樹に連れていってもらったが、陽子からその場所を指定されるとは想定外。
梓は、たまに行く近所の定食屋だと想像したから。