恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

絵梨はそう言って、胸を大きく張った。

言われてみれば、それはあり得る。
小料理屋をやっているから、陽子はいつだって身綺麗。顔立ちの美しさもさることながら、五十代半ばでも、四十代前半と言って通用する若々しさがある。

梓が成人して久しく、長年独り身で生きてきた陽子が新たな伴侶を見つけても、なにもおかしくはない。


「……そうだね。そうかもしれない」


だとすれば、梓は祝福しないわけにはいかない。これまでさんざん苦労して育ててくれた陽子の幸せは、梓の幸せでもあるから。

母親を取られるかもしれない寂しさを感じつつ、うれしさも胸に溢れる。


「佐久間さん、これ大至急お願いしたい」


小走りでやってきた同僚のデザイナーから書類を手渡され、梓は「はい、すぐに作成してお持ちします」と答えた。

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