恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

◇◇◇

午後六時半。梓は陽子に指定されたル・シェルブルにやってきた。

ネットリサーチしたところによると、山口楼は一階にあるらしい。
前回ここへきたときには一樹がエスコートしてくれたおかげで、戸惑ったり迷ったりしなかったが、今日はひとり。ここにいるすべての人が自分とは違う人種に思えて、挙動不審になる。

エントランスを入ってからキョロキョロして、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしていると、見かねたホテルのスタッフが声をかけてくれた。


「お客様、なにかお困りでしょうか?」
「すみません、山口楼へ行きたいのですが……」
「それでしたら、こちらでございます」


スタッフは笑顔を浮かべながら、軽く腰を折って手を前に差し出す。案内してくれるようで、これでたどり着けると梓はホッとした。

案内してくれたスタッフに山口楼の入口でお礼を告げて中へ入ると、薄紅色の着物を着た女性が現れる。
待ち合わせだと伝えると、名前を確認されて店内へ通された。

ホテルのエントランスロビーでもたもたしたため、約束の時間を五分過ぎている。時間に几帳面な陽子なら、先に到着しているだろう。
小上がりでパンプスを脱ぎ、さらに奥へ入っていく。

< 145 / 301 >

この作品をシェア

pagetop