恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
幸せのあとさき
クレアストの社長室は、タワービルの三十七階に位置している。
建ち並ぶ高層ビル群の中で抜きんでた高さのため、その眺望は格別。夜になれば、きらめくネオンが光の海のように広がる。
梓とスイートルームで一夜を過ごした翌日の朝。
ブラインドを開け放った一樹は、背もたれの高い椅子にゆったりと腰を下ろしてコーヒーを飲んでいた。
朝日に照らされた街並みを見下ろしながらそうするのは、一樹の毎朝の日課である。
そうして一杯のコーヒーを飲み終えるまでの間に、頭の中で今日一日の仕事の段取りとシミュレーションを行う。そうすることで、よりスピーディに効率よく仕事をこなせるのだ。
忙しいからこそ、朝のそのひとときがとても重要になる。
一樹は、幼い頃からなんでもできる子どもだった。それも、単に〝できる〟のではなく〝ナンバーワン〟になるほどの出来だった。
日本でも有数の病院として名高い久城総合病院の院長を父にもつ一樹は、生まれたときから次期院長の肩書きがついてまわった。目指すべき道が、赤ん坊のときから示されていたのだ。
一樹自身も、その自然な流れに逆らわず幼少期から少年期を過ごしていた。
勉強や運動ができればまわりから褒めそやされ、両親は喜び、女の子にもモテる。多大なる両親の期待に応える満足感もあった。