恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
もちろん、両親の反対がなかったわけではない。退学を無効にするよう大学に働きかけたり、一樹の説得に懸命にあたったりした両親だったが、結局その決意を変えられなかった。
これまで親の期待通りに生きてきた一樹の初めての反乱は、〝勝ち〟を収め、めでたく好きな道を突き進むことに成功したのだ。
このとばっちりを受けたのは、同じく医師を志していた、ひとつ年下の弟・修矢(しゅうや)だった。
いつも一樹の影に隠れるようにしていた修矢は、いきなり次期院長の期待を背負うことになってしまった。一樹のように前へ前へと出るタイプではない修矢には、相当な負担になるだろう。
そう心配していた一樹だったが、修矢はそんな期待に押しつぶされず、みごとに応えている。現在は、久城総合病院の小児外科医として、その腕を日本中に知らしめているのだから。
「社長、今日はやけにご機嫌ではないですか?」
友里恵に一樹がそう聞かれたのは、梓とスイートルームで朝まで過ごした日の朝のことだった。
毎朝のように寸分たがわずにスケジュールの確認に入った友里恵は、途中で手帳から顔を上げ、一樹をまじめな顔でまじまじと見る。
今日もいつも同様に、まるでスタンプでも押したような身だしなみである。