恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「一樹さん、どうしたんですか?」


今日もたしか、式場の打ち合わせがデザインチームとあるはず。その合間を縫って、わざわざ来てくれたのだろうか。


「梓のおばあちゃんを元気づけにね」
「まぁ、なんてうれしいことを言ってくれるの」


ストレッチャーに横になった多香子はニコニコ顔だ。


「仕事を抜けてきたので、すぐに戻らないといけませんが、おばあちゃんの顔だけ見ておきたくて」


一樹はそう言ってからストレッチャーの横に跪き、多香子の手を取る。


「父にもくれぐれもよろしく頼むって言っておきましたから、なにも心配しなくていいですよ」
「ありがとうね」


一樹と多香子のやり取りを聞いている陽子は、ぽかんとした顔でふたりを見た。
梓はそこで、陽子に一樹の父親が多香子の主治医だと話していないと気づく。陽子はふたりの会話がちんぷんかんぷんだろう。

< 212 / 301 >

この作品をシェア

pagetop