恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「一樹さん、どうしたんですか?」
今日もたしか、式場の打ち合わせがデザインチームとあるはず。その合間を縫って、わざわざ来てくれたのだろうか。
「梓のおばあちゃんを元気づけにね」
「まぁ、なんてうれしいことを言ってくれるの」
ストレッチャーに横になった多香子はニコニコ顔だ。
「仕事を抜けてきたので、すぐに戻らないといけませんが、おばあちゃんの顔だけ見ておきたくて」
一樹はそう言ってからストレッチャーの横に跪き、多香子の手を取る。
「父にもくれぐれもよろしく頼むって言っておきましたから、なにも心配しなくていいですよ」
「ありがとうね」
一樹と多香子のやり取りを聞いている陽子は、ぽかんとした顔でふたりを見た。
梓はそこで、陽子に一樹の父親が多香子の主治医だと話していないと気づく。陽子はふたりの会話がちんぷんかんぷんだろう。