恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「あのね、お母さん、実はおばあちゃんの主治医の久城先生は、一樹さんのお父様なの」
「えっ? 本当に?」
陽子にこっそり耳打ちをすると、当然のリアクションで返された。
最初に聞いたときに驚いたのは、梓も一緒だ。
「そんな偶然があるものなのね。でも、ありがたいわね。こうして来てくれるなんて」
しみじみと呟く陽子に梓も頷く。
忙しいのに時間を作り、無理して顔を出してくれた一樹の優しさが、梓もうれしかった。
三人で多香子を手術室の前で見送り、揃ってひと息つく。
「久城さん、本当にありがとうございます。梓から聞いて驚いたわ」
「私も、梓さんに付き添ってこの病院に来たときに初めて知ったんですけどね」
「なにも知らなかったのは、お母さんだけってことね」
ちょっといじけながら言う陽子に、梓がすかさず「ごめんね」と謝る。
そんなつもりはなかったのだ。
あのときは多香子を安心させようとして、一樹に恋人のふりをしてもらったから。あの嘘が本当になろうとは、思いもしなかった。