恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
仕事に戻る一樹を病院のエントランスまで送りながら、梓は昨夜の遠藤とのことを報告した。
「ずいぶんあっさりと引いたものだな」
一樹も梓と同じ感想をもったようだ。
一樹は顎に手をそえ、目を細めて険しい表情を浮かべた。
遠藤はきっと、友達から始めて、将来的に付き合おうと本気で考えていたわけではないのだろう。梓に対して、そこまで執着していたわけではない。
だから、あんなにあっさりと引き下がったのだと、梓は考えていた。
(穏やかで誠実そうな人だったもの。私の気持ちをわかってくれたんだわ)
遠藤との心配事がなくなり、気分が軽くなる。
あとは、多香子の手術の成功と退院を待つだけだ。
「それじゃ、俺はここで」
一樹は握っていた梓の手を引き寄せ、人目を気にせず軽く抱きしめた。
当然ながら梓はそんなことに慣れていない。顔を真っ赤にして身体を硬直させていると、梓を解放した一樹がふっと笑う。