恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「おばあちゃんの手術が終わったら、電話でもメッセージでも送ってくれ。じゃ」


ひらりと手を振り、一樹が背を向ける。
梓は最後にかけられた言葉に返事もできなかった。

(……今、髪をくしゃってされたよね? 嘘みたい……)

針金のような直毛である梓の髪を、くしゃっと撫でてくれた人はこれまでにひとりもいない。
見るからに硬く、触るのもためらわれるためだろう。憧れの〝頭ポンポン〟も〝髪の毛くしゃ〟も一生されないと諦めてきた。

(それを一樹さんが今……!)

きっと、やわらかい髪の持ち主には一生わかってもらえない気持ちだろう。

後から思い出したように高鳴りだした鼓動は、どこまでスピードを上げるのか梓にもわからなかった。

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