恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

陽子の様子からすると、梓が尋ねても心配をかけるからと答えないだろう。はぐらかされるのは予想できて、梓もそれ以上は聞けなかった。


「あ、そうだ、おばあちゃんに聞きたいと思っていたことがあるの」


ほんの少し暗くなった場の雰囲気を変えようと、梓が切りだす。


「ん? おばあちゃんに聞きたいことなんて、いったいなんだろうね」


ニコニコしながら首を傾げていた多香子は、梓が「久城先生のお父様との昔話」と言った途端、目をパッチリと開いたまんまになった。
そのことをどうして梓が知っているのかと、とても驚いているようだ。

陽子は「なんの話?」とぽかんとする。


「おばあちゃんが意識を失った夜にね、久城先生から聞いたの」
「……そうだったの」


多香子は小刻みに頷きながら小さく笑った。


「私が十代の頃の話だから、もう何十年も前のことだよ」

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