恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

多香子はどこか懐かしそうに遠い目をしながら話し始めた。

出会いは夏の午後。
母に頼まれておつかいに出た多香子は、突然の雨に降られ公園の東屋で雨宿りをしていたという。

一向にやみそうにない雨は、どんどんひどくなるばかり。空は暗く、今にも雷が鳴りそうな気配だった。

途方に暮れる多香子の前に現れたのが、久城の父親・久光(ひさみつ)だったという。
差した傘から『よかったら入っていきませんか?』と声をかけられたそうだ。

女子校に通う多香子にとって、家族や教師以外の男性と接するのはめったにないこと。最初こそ懸命に首を横に振っていたが、そのうち空にピカッと稲光が走った。
このままひとりでいるのは怖く、おまけに心細い。すがりつく思いで言葉に甘えることにした。

久光は実直で優しい青年で、多香子を自宅まで送り届けてくれたそうだ。

後日お礼をしようと、別れ際に教えてもらった住所を訪ね、そこからふたりで会うように。いつしか互いに相手を想い合うようになったが、久城の家は代々続く医者の家系。
対する多香子は一般家庭。当然釣り合いはとれない。

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