恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
そうこうしているうちに、久光に縁談が持ち上がる。家柄の違いは、当時のふたりにはどうすることもできない。
別れは必然だった。
「梓が一樹さんを病室に連れてきたときには驚いたよ。久光さんの面影があってね」
多香子は懐かしそうに目を細めた。
(そういえば、あのときのおばあちゃん、一樹さんが病室に一歩入ったときにものすごく驚いた顔をしていたっけ)
あれは梓が男の人を連れていったからという理由のほかに、もっと大きなものがあったからだったのか。
「久光さんが結婚して間もなく、おばあちゃんもおじいさんとお見合いしたんだよ」
「……つらかった?」
「つらくないと言ったら嘘になるけど、おじいさんも優しい人でね。年を追うごとにとっても大事な人になっていったよ。でも、まさか久光さんのお孫さんと梓がねぇ……」
梓を見つめる多香子の瞳に、切なさとうれしさの入り交じったような色が滲んでいるように見えた。
複雑で不思議な想いは、梓も同じだった。
多香子がかつて愛した人の孫である一樹と恋に落ちたのは、必然だったのか。
運命の巡り合わせのようなものを感じ、梓は胸の奥が熱くなるのを感じた。