恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
◇◇◇
午後六時四十分。梓は、駅前のオープンカフェ・ドロシーの前にいた。
昨夜、遠藤との電話を切るときには『行きません』と答えたが、このままにしておくのはできない。『家族のためにも』という遠藤の意味深な言葉が、梓をここまで来させた。
ただ、ドロシーまで来たのはいいが、最後の一歩を踏み出せずにいる。
もしも一樹が、遠藤とふたりで会ったことを知れば不愉快な思いをするだろう。
店先で梓がどうしようかとためらっていると、「梓さん」と声をかけられた。
そちらを見ずとも、誰だかわかってしまう。遠藤だ。
「来てくれると思っていました」
前回初めて会ったときのように、紳士的な笑みを浮かべる。
約束の時間まではあと十五分もある。そんなに早くに現れるとは想定外だ。
梓は七時ギリギリまで悩もうと思いながら来たため、予定よりも早く着いていたのだ。
「あの、お話って……」
「ここではなんですから、とりあえず中に入りましょう」