恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
遠藤は腕時計を梓に見せるようにしてから、唇の両端を上げた。目は笑っていないように見えるのが、どことなく不気味だ。
梓は一刻も早く、こうしている時間から逃れたかった。それは、遠藤からなにやら不穏な雰囲気が感じ取れるせいもあるだろう。
しばらくしてコーヒーが運ばれ、遠藤が梓に「入れますか?」とテーブルのコーナーに置いてある砂糖とミルクを手で指す。
普段ならどちらも少しずつ入れるが、今日はブラックでいい。「大丈夫です」と遠慮した。
そろそろ本題に入ってもらいたいところだが、遠藤は優雅にコーヒーを口に運んではソーサーに戻すのを繰り返し、一向に話す気配がない。
「あの、そろそろお話を」
梓が切りだすと、遠藤はカチャリと音を立ててカップを置いた。
「コーヒーは熱いうちに飲むのが好きでしてね。冷めたものはどうもおいしくない」
「はぁ」
梓は、遠藤の講釈に気の抜けた返事をする。聞きたいのはそんな話ではない。
「ここのコーヒーは、豊かなコクがありますね。ほどよい酸味もいいです」