恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
遠藤はその後もコーヒーをゆったりと堪能し、梓にもどかしさを感じさせた。
そうしてようやくカップを空にすると、遠藤は「さて」と切りだす。
「梓さんのご様子から推察するに、お母様からはなにもお話がないようですね」
「……母から、ですか?」
いったいなんの話を始めるのか。陽子がどうしたというのか。
「実は、忍び草のある一帯に商業ビルを建てる話が持ち上がっておりましてね」
「えっ、あそこに商業ビルを?」
「ええ。商店街は古き良き時代の〝垢〟みたいなものですからね。シャッター通りなんて言われているところもあるくらいです」
「ですが、あの商店街にはそんな店はないはずです」
たしかに人通りもまばらで、店が立ち行かなくなる商店街が存在するのは知っている。
首都圏ほど交通網に恵まれていない地方では車が移動手段。そうなると、広い駐車場を持つ郊外型のショッピングセンターなどに客が流出していく。
でも、忍び草があるのは比較的客足も多く、賑わいのある商店街である。遠藤のように言われるのは心外だ。
梓の語気はつい強くなった。