恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

ところが、普段なら一樹以外を考えられなくなるのに、梓はべつのことを考えていた。

陽子の店がなくなる。
それは梓にとって、なによりも苦しかった。
でも、一樹も失いたくない。

(一樹さんと離れるなんてイヤ。……絶対にできない)

陽子か一樹か。究極の二択は、梓の胸を否応なしに締めつける。

失いたくないものがひとつ増えただけなのに、その存在が圧倒的に大きすぎるから、どちらかなんて選びようもないのだ。

梓の頭の中で振り子が大きく揺れる。
そこから目を逸らすようにして、一樹にしがみつく。


「一樹さん、もっと強く抱きしめてください……」


梓がどこにも行けないように。ふたりが決して離れないように。
一樹の逞しい腕が、梓の切実な願いを叶えようと大きく包み込んだ。


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