恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
一樹の追及を逃れるためにお代わりをお願いしようと思ったが、これ以上飲んで酔ったら本末転倒だ。
一樹は不思議そうにしながらも梓の髪をポンと撫で、隣に座った。
思いがけず一樹に触れられ動揺する。これからしようとしている話の前に、そんな仕草はこたえる。
一樹はバーテンにモヒートを注文した。
「今夜、ここに泊まろうと思ってね。梓も大丈夫だろう? 明日は休みだ」
「……いえ、泊まれません」
「なにか予定でもあるのか?」
一樹は両肘をカウンターに突いて、前を向いたままの梓の視界に入ろうとする。
今夜の夜景は、どうしてこんなにも綺麗なのだろう。
眼下に広がる光の海が眩しいせいなのか、目の奥がなんだか熱い。
(早く言わなくちゃ。いつまでも一樹さんの隣にいたら、気持ちが揺らぐだけ)
梓は小さく息を吸い、吐き出すと同時に唇を動かした。
「一樹さん、お別れしてください」
「……は? なにを言って――」
「お別れしたいんです」