恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
偽りからはじまったふたりの恋の結末
季節は夏の終わりの八月末。梓が一樹と別れて二ヶ月が経とうとしている。
社内で一樹を見かけても、当然ながら梓は声もかけられない。
以前と変わらず颯爽と仕事している姿は、梓とのことがまるでなかったかのようだった。
一樹と過ごした時間はひとときの夢。そう思うしかなかった。
ル・シェルブルの控え室。梓はひとりで大きな鏡の前に座り、映った自分をぼんやりと眺めていた。
Aラインの真っ白なワンピースに身を包む自分は、色を失ったかのように見える。心は虚ろ。身体には力も入らない。
今日これから、ここで遠藤との婚約が披露されることになっている。
集まるのは遠藤の会社関係者や親族。約百人という中規模の披露パーティーになるそうだ。
結納こそまだだが、ここでお披露目されれば、梓は遠藤の婚約者として認定されるだろう。
一樹と初めて気持ちを確かめ合ったこのホテルで、べつの男との婚約を披露するのは屈辱にも近いものがある。
多香子と陽子はいまだに半信半疑。本当にそれでいいの?と、今朝もしつこいくらいに聞かれた。