恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「みんなに披露すれば、キミは僕の立派なフィアンセだよ。僕がこのときをどれほど待ちわびたかわかる?」
なにを言われても、梓は俯いたまま。
(遠藤さんは、こんな人形のような私で本当にいいの?)
遠藤といるときの梓は、いつだって心ここにあらず。遠藤が一方的にしゃべり、梓は相槌を打つ程度。がんばって浮かべた笑顔は唇の端が震えた。
そのときドアがノックされ、遠藤の秘書が現れる。男は頭を恭しく下げ、遠藤に近づいた。
「専務、取り急ぎお話ししたいことがあります」
「なんだよ、こんなときに。話ならパーティー終了後にしてくれ」
「ですが、みよしの商店街のことなんです。妙な動きが」
秘書が口にした言葉に、梓の耳が反応する。
(みよしの商店街? どうして今さらその話を持ち出すの? 商業ビルの話はなくなったはずでしょう? 妙な動きってなに?)
遠藤は焦ったように梓をチラッと見やり、秘書を「こんなところでする話じゃないだろ」と小声で叱責する。