恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

軽く受け流すが、表情筋が緩むのは止められない。「ほら、その顔!」と絵梨に指摘されて、真顔を浮かべるのに苦労する。

そこから逃げる以外に手立てがなくなり、梓はトイレに行くふりをして席を立った。

(それにしても絵梨ちゃんってば、いつもながら勘が鋭いんだから。……それとも私がわかりやすいの?)

そんなことを考えながら歩いていると、反対側から友里恵が来るのが見えた。
梓に気づき、友里恵が上品に微笑む。

(そういえば、三島さんにきちんとお礼も言っていなかったわ)

みよしの商店街の一件では、三島がいろいろと情報を集めてくれたと梓は一樹から聞いていた。

ちょうどその頃佳境を迎えていた式場建設は、すべての工程が終了し、来週の月曜日に引き渡すことになっている。そんな時期に一樹にも友里恵にも負担をかけ、梓は本当に頭が上がらない。


「あの、三島さん、少しだけお時間をよろしいですか?」


すれ違いざまに友里恵を呼び止め、近くのミーティングルームへ引き入れた。

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