恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
キスまでしたのに?と、思い出した梓の顔が再びカーッと熱くなる。
「なんとしても俺を早く結婚させたいらしいからね。その場しのぎと考えていたけど、そうもいかなそうだ」
一樹によると、友里恵には確固たる信念があるそうだ。
社長たるものは守るべき家庭をもって初めて、素晴らしい仕事ができるのだと。妻帯者になると、取引先からの信頼も違うのだという。
そして一樹の結婚こそが、友里恵にとって最重要課題なのだとか。
「今もきっと、部屋のドアの向こうで梓が出てきやしないか、息をひそめているだろう」
梓はドアの方を見て、思わずビクンと肩を揺らした。
(ドア一枚隔てた向こうに三島さんが……?)
つまりそれは、一樹たちがひと芝居うったのではないかと疑っていることになる。
仁王立ちしている友里恵を思い浮かべて、梓の背筋に冷たいものが走った。
「だから、梓にはもう少し恋人ごっこに付き合ってもらわないと」
「……とおっしゃると?」
「今夜、梓にはここに泊まってもらう」