恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
一樹の車はレンガ造りの立派な家の前で停められた。
さすがは大病院の御曹司。百坪は余裕でありそうな大きな建物だ。手入れのされた庭を合わせると敷地面積は五百坪を軽く超えそうである。
予想以上の自宅を前にして、身体が強張った。
一樹にエスコートされて玄関の前に立つ。
(どうしよう。いよいよだ……)
梓は慌てて、手の平に〝人〟という字を書いて三回飲み込んだ。
「なにしてるんだ?」
「緊張がひどいので、人を飲んでます」
「それ、本当に効く?」
「どうでしょうか。でもやらないよりはいいような気がします」
心臓は早鐘だし、膝は笑うくらいに震えている。とにかくこの緊張をなんとかしたい。
「そんなに緊張するような親じゃないから心配するな」
「ですが、本当に私のような者で大丈夫なのでしょうか」
なにしろ家柄違う。多香子もそれが原因で恋を諦めたのだから。
時代こそ違うが、自分だって似たような状況だ。
「梓が気にしてるのは、もしかしておばあさんとうちの祖父のことか?」
まさにそう。梓は頷いた。