恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「佐久間梓と申します」
油を差した方がよさそうなほどのぎこちない仕草で頭を下げると、一樹が隣でクスッと笑う気配がした。
「いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
病院で何度も会っている一樹の父親である智弘(ともひろ)は、白衣を脱いでも優しい印象は変わらない。
「梓さん、さぁあがってください」
母親の美弥子が気品のある笑顔で言ってくれた。切れ長の目もとが印象的なアジアンビューティーといった感じだ。
どちらかというと、一樹は父親の方に似ているのかもしれない。
通されたリビングは三十畳はあろうかと思われる広さで、落ち着いたダークブラウンの調度品が重厚な空間を作り出している。
ソファを勧められ、梓は軽く頭を下げ、革張りの弾力に密かに感心しながら腰を下ろした。
「本日はお忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。一樹が梓さんを正式に紹介したいと言ってきたときには、私も妻も大喜びだったんですよ」