恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

「梓さん、梓さん、キャビアとフォアグラがあるんです！　ステーキなんて肉汁がじゅわーって！」


ダイニングの隅で会場の様子を見守っていた梓に弾んだ声をかけたのは、高杉絵梨（たかすぎ　えり）、ふたつ年下の後輩である。同じくデザイン企画部の一員だ。

クリッとした目に小さい小鼻。ぷっくりとした唇と頬は艶やかなピンク色で、かわいらしい顔立ちをしている。パーマをかけたわけでもないのに緩やかなウエーブを描いた栗色の髪は、絵梨によるとくせで手を焼いているらしい。
百五十センチと小柄な身長はかわいらしさに拍車をかけ、可憐そのもの。

そんな絵梨は、梓の憧れでもある。
というのも、梓は絵梨とはことごとく正反対の容姿をしていた。

くっきりとした二重瞼は少し吊り目気味のためキツイ印象を与えがちで、薄い唇も、またしかり。そのうえ、黒く長い髪はパーマにも打ち勝つほどの直毛。
そこへきて身長が百七十センチ近くとなれば、かわいらしい絵梨に憧れるのも無理はないだろう。

梓は興奮気味に話す絵梨の唇に、そっと人差し指を立てた。


「絵梨ちゃん、お客様に聞こえちゃうから」