恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
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要塞のように白い建物は、その全貌をとらえるのは難しいほどに大きい。
『久城総合病院』の循環器内科。そこに梓の祖母・多香子(たかこ)が入院している。
一年前に弁膜症の手術を受けた多香子は、近頃になって不整脈が出たため、大事をとるためのものだ。
前回、見舞いに来たときに多香子にイチゴ大福を食べたいとねだられ、梓は今日それを届けにきた。
駅前の和菓子屋で手に入れたそれは、梓も大好きな一品。
食事に制限のある入院患者ではあるが、多香子は『我慢しすぎるのも良くないから、たまにならいいですよ』と、主治医から甘い言葉をこっそり囁かれたそうだ。
何度となく通っている病院のため、勝手知ったる我が家も同然。梓は迷わず二号館の三階にある循環器内科病棟へ辿り着いた。
ちょうど食事の時間が終わった頃で、通路に置かれたワゴンには戻ってきたたくさんのトレーが収納されている。
梓が四人部屋の窓際の白いカーテンを開けながら「おばあちゃん」と声をかけると、多香子は「おや、今日もきてくれたの?」と目を丸くしながら身体を起こした。
多香子は七十七歳。シルバーグレーの短い髪にパーマをかけてふんわりとさせているが、本人はコシがないと常々悩んでいる。