恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

黒子として会場にいる梓たちは、料理に手を出すわけにはいかない。招待客が不自由さを感じないように、ただひたすら細心の注意を払うのが仕事だ。


「はぁい。あーあ、お腹空いちゃったな」


拗ねたようにお腹に手をあてる絵梨に、梓はスーツのポケットから取ったものを差し出した。


「これでも食べて凌いでね」
「えー、酢昆布ですか?」


絵梨が唇を尖らせる。どうやら彼女には不満らしい。
でも梓には、その気持ちがちっともわからない。甘酸っぱくて少ししょっぱい酢昆布のおいしさがわからないとは。

(一枚一枚についた白い粉がなんともいえずおいしいのに)

残念に思いながら、酢昆布を再びポケットにしまい込んだ。


「もうっ、梓さん、好みが渋すぎます。いつも思うんですけど、せっかく美人なのに食べ物の好みに女子のキラキラした感じがないっていうか。こういうときにポケットから出すなら、一粒チョコとかかわいい包み紙のアメとかですよっ」
「……そうなの?」

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