恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
チョコもアメも好きだが、酢昆布には敵わないと思いつつ聞き返す。
「そうですよ。でもまぁ、お腹空いちゃったし、この際ひとつください」
かわいらしく小首を傾げて言われ、梓はもう一度それを取り出して「はい、どうぞ」と絵梨に手渡した。
自分に足りないのが女子力だと頭でわかってはいても、それを体得するのは梓にとって至難の業だ。絵梨のように首を傾げて微笑んでも、ロボットのようなぎこちなさ。油でも差しましょうか?と心配されそうな動きになる。
一向にかわいくならないのだから。
「キャビアやフォアグラを食べているつもりで、酢昆布を口に入れて……」
目を閉じてひとつ口に入れた絵梨は、「やっぱりちがぁう」と酸っぱそうに唇をすぼめた。そんな顔ですらかわいいなんて罪だなぁと、梓は顔を綻ばせた。
「あの、すみません」
壁際でこそこそとやっていたふたりに、不意に声をかけてきた男性がいた。
ネイビーの上質なスーツに身を包み、整髪料できっちりと整えた髪は清潔感に溢れている。