恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
「何度も言うけど、俺は別にからかってないぞ」
「では、今後そのようなことは言わないでいただけませんか? 調子が狂います」
「調子って梓の? いいね、それ。梓の調子をとことん崩してみたくなる」
「あのですね、社長」
反論しようとした梓だったが、そこで言葉を止めた。勢いで〝社長〟と呼んだのだ。
どうか気づかないでと願ったが、一樹の横顔にニヤリという笑みが浮かぶ。
「ペナルティだな」
「うっ……」
梓はもうなにもしゃべらない方がいいのかもしれない。口を開けばキスを呼び寄せるばかり。
梓は唇を引き結び、もうしゃべらないぞと心に決めた。
「ところで梓は、あの一軒家に誰と住んでるの?」
バッグからスマートフォンを取り出し、メモ画面に【母と祖母との三人暮らしです】と入力。それを一樹に向かってかざした。
「なんで筆談なんだよ。運転中の俺が見られると思うのか?」
たしかにその通りだ。