恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
一樹のプライベートを梓はなにひとつ知らない。ほかの社員はもしかしたら知っているのかもしれないが、豪快そうに見える一樹は、公ではあまり自分を語らない。
偽りの婚約者の役どころでなければ、一樹から家族の話を聞けなかっただろう。
「昨年の十一月に結婚したばかりの新婚」
「弟さん、ご結婚されたんですね。おめでとうございます」
そんなおめでたい話も梓は知らなかった。秘書をしている友里恵あたりは、把握しているだろうけれど。
「八月には子どもも生まれる予定だよ。俺もおじさんってわけだ」
「おじさんには見えないから大丈夫です」
三十二歳の一樹は大人の色香に溢れた男だ。
豪快でパワフル。なにごとにも全力で立ち向かうバイタリティは、陰からとはいえ数々の仕事を見てきた梓にも目に眩しいものがある。
世間一般で言うところの〝おじさん〟の分類から極端にはみ出る男だ。
「そうか? まぁ梓がそう言ってくれるなら、そう思うことにしよう」
一樹はうれしそうに目を細めた。