恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
そうして話しているうちに、梓が見知った場所を車が走っていると気づく。梓の自宅がある町内だ。
「今夜はこれで解放してあげるとするか」
車がゆっくりと停車した。
この時間、陽子は小料理屋の仕事からまだ帰らない。当然ながら真っ暗な家は、玄関の外灯だけがオレンジ色に灯っていた。
梓が助手席でペットボトルやバッグを持ってもたもたしているうちに、一樹が外からドアを開ける。
差し出された手をポカンと見上げると、「手」と言いながら一樹が指先をひらひらとさせる。
そこにのせろという意味だと気づくまで、数秒を要した。
「ありがとうございます」
なんとなく照れる扱われ方だったが、一樹に手を重ねて車を降り立った。
一樹の車から百メートルほど離れたところに一台の車が停車して、ライトを消す。友里恵なのだろうが、なんともわかりやすい尾行の仕方だ。
一樹が買ってくれたミネラルウォーターのおかげか、ラウンジを出たときに比べて足もとがしっかりとしているのは自分でもわかる。