恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

ところが、いよいよ門扉を開けて入ろうというところで鍵が見つからない。


「あれっ?」
「どうした」


バッグの中をごそごそと漁ってみるが、いつも入れている小さなポケットにも見当たらない。


「鍵がなくて……」


多香子は入院中だし、陽子は店。このままだと家に入れなくなる。
梓がバッグの中身をこぼす勢いで焦っていると、


「ひとつ聞いてもいいか?」


一樹が訝し気に言った。


「左手に持ってるのはなんだ?」
「えっ……。あ!」


そう言われて自分の左手を見た梓は、思わず素っ頓狂な声をあげた。左手がしっかりと握っていたのは、まさしく自宅の鍵だったのだ。
自宅の前に車が止まったときに、無意識にバッグから取り出したのかもしれない。

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