恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
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梓のスマートフォンに電話が入ったのは、三十五階にある休憩室で絵梨とお弁当を食べているときのことだった。
クレアストには社員食堂がないため、社員は弁当を持参するか、外食するかのどちらかになる。梓はたいてい作って持ってきているが、絵梨はほかの同僚たちとランチに行く日もある。
スマートフォンの画面に表示された名前を見て、梓は文字通り飛び上がった。一樹だったのだ。
おかげで椅子がガタンと鳴り、絵梨に「大丈夫ですか?」と心配されるはめに。
「大丈夫よ」
澄まして答えたが、心は大きく動揺。会社で一樹からの電話を受けることのヒヤヒヤ加減といったらない。
一樹とホテルのラウンジに行ってから、早くも一ヶ月が経過した。
おそらく土日返上で式場関連の仕事を忙しくしている一樹とは、あれから外で会っていないが、たまに電話をかけてきては他愛のない話をしている。
「……はい、佐久間です」
席を立ったり、絵梨に背を向けたりしてはかえって怪しまれると思い、梓はそのまま応答した。