恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

『梓はなにか観たいものはないか?』


いきなりそう聞かれ、答えられるはずもない。頭の中は半ばパニック状態だ。

(土曜日の午後のデートなんて……!)

まさに恋人同士がやるようなことが、梓の胸を大きく揺さぶる。


「そうおっしゃられましても……」


話題の映画がなにかもわからず、言葉に詰まった。今この場で一樹に電話を待ってもらって絵梨に聞こうかと思ったが、さすがにそうもいかない。

とにかくテンパった梓はあたふたと、自分でも笑ってしまうくらいに取り乱していた。


『それじゃ、明日までに決めておいてくれ』
「で、ですがっ……」
『社長、この後の来客ですが』


ふと電話越しに友里恵の声が聞こえ、梓は冷静になっていく。

(……あ、そうか。三島さんのいるところで、わざと電話をしてきたんだ。婚約者や恋人の会話を聞かせるために)

そう思い至り、なぜか胸の奥がチクンと痛んだ。

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