恋の餌食 俺様社長に捕獲されました

切れたスマートフォンをバッグにしまい、なにもなかったかのように箸を動かす。


「ちょっとちょっと梓さん、今の電話誰からですか? デートってなんですか?」


ウキウキしながら絵梨がテーブルに身体を乗り出す。


「ち、違うの。デートってその……日付のこと」
「えー? 嘘だぁ! それなら日付とか日程って言いますよー」


苦し紛れのごまかしは、さすがに絵梨には効かないらしい。
でも、絵梨に真実を言うわけにはいかない。


「本当なの。私のおばあちゃん、入院してるでしょう? お見舞いに行ってくださるって方がいて、その方がいつにしましょうかって、ね」


おかしなことを言っている自覚はあったが、梓はそう言って自信ありげにゆったりと微笑んだ。
余裕ぶって見せなければ、絵梨に根掘り葉掘り聞かれるだろう。

そうでなくても梓に恋愛経験がないのは、絵梨には既知の事実。男の人の話題が出るだけで興味津々になると想像がつく。

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