恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
本気でゲットしようとは、たしかに思っていない。その前の〝私には無理〟というフェーズにいる。
「それでそのおばあちゃんの容態はどうですか?」
「うん、おかげさまで安定しているみたい。一年前に手術を受けたから、大事をとってっていう入院だしね。深刻なものではないの」
「そうですか。早く退院できるといいですね」
(本当に早く退院してほしいな)
なにしろ帰宅したときに誰もいないがらんどうの家は、外気温より一度、いや二度は低く感じる。〝ただいま〟と言っても、当然ながら誰も返してくれない。
そんな寂しい毎日は、梓が生まれてからそうそうない。たった一度だけあるのは、多香子が手術のために入院していたときのこと。
多香子がいたからこそ、自分は寂しい思いをせずに生きてこられたのだとしみじみ思ったのだった。