代行秘書 ときどき レンタル彼女⁉
不思議と泣く事もなく、落ち着いていられた。
朝一番に提出した辞表届。
デスクを叩いて拒否される。
それも想定内。
「俺は納得出来ないって言ってんだよ!」
「引き継ぎどうしますか?」
「紗和っ…!」
「すみません、今月中でしたら引き継ぎ作業致しますのでご連絡頂ければ向かわせて頂きます」
「ふざけんなよっ…!」
「失礼します」
一礼して部屋を出る時……
後ろから抱き寄せられた私は足を止めた。
「行くな………紗和が居ないと俺は…」
手を解いて振り返る。
今にも泣き崩れそうな瞳……
でももう、私は隙を与える訳にはいかない。
「私が居なくても何も変わりません。副社長は必ずその足だけで歩いていけます」
「俺は辞めさせない」
「決定事項ですから」
もう、揺らいだりしない。
愛なんて見せない。
色のない瞳で見据えたら少しは伝わるのかな……
「失礼します」
扉を閉めてデスクに戻るともうほとんどの人が出社している。
ネームプレートを外して置いた。
「深山さん、おはよう」と先輩方がいつものように挨拶してくれる。
身辺整理をしている私を見て他の社員さん達もただならぬ空気を感じているようだ。
「深山さん…まさかだよね?」
最後の自分の仕事を託しUSBメモリを手渡す。
「ここに引き継ぎ業務の全てが入ってます。里中さんにお渡しして宜しいですか?」
申し訳ない気持ちでいっぱいだが退職の挨拶をしだした途端、勢いよく扉が開いて近付く足音は目の前に。
嫌でも目に入る副社長の姿。
ここに来たら注目の的だってわかりきった事なのに…わざとなの?
あなたは最後の最後まで心を乱して困らせる。