代行秘書 ときどき レンタル彼女⁉
商談終了後も私の目の前で連絡先を渡そうとする堀越社長と、それを必死に阻止する副社長が交互に行き来している。
流石にこれはリアクションに困るよ……
「堀越社長、お車お見えになりました」と笑顔で対応するも「いつ食事行ける?」「うちの会社来ない?」ばかり。
「お前いい加減にしろよ」と副社長は顔真っ赤になり怒っている。
体調悪いのにこれ以上血圧が上がったら大変。
慌ててエレベーターまで案内する。
開いた扉を止めながら中のボタンを押した。
「ここで良いから送る必要ない」と副社長にフロアに残るよう言われた。
渋々乗り込んだ堀越社長は「え〜見送ってくれないの〜?」と不満げ。
「ここで充分だっ!」
もうすでに目が血走ってる。
壁に手ついてるからやっぱりフラフラなんだ。
チラッと様子を見ながら「わかったよ〜」と口を尖らせ手を振る。
ゆっくりと扉が閉まっていく。
一礼し、背を向けた副社長の後に続こうとした瞬間。
もう心は副社長の方に向いているのに。
扉が閉まるまで一礼していたつもりだったのに。
閉まっていく扉から手が伸び、吸い込まれるように引っ張れる。
「キャ…!」と言う頃には堀越社長の腕の中だった。
扉に挟まれる事なく綺麗に引き寄せられた私は整いすぎているその顔をビックリしながら見ているだけ。
すぐに頭が回らなくて、近すぎる距離感に真っ向から受け止めきれず戸惑う他なかった。
完全に扉が閉まり動き出すエレベーター内。
1階までは止まらない。