堅物社長にグイグイ迫られてます
「別れた恋人を忘れるにはどうしたらいいと思いますか?」
翌日、佐原さんと事務所内でお昼休憩をとりながらふとこんなことを尋ねてみた。
ちなみに御子柴さんは午前中から打ち合わせで事務所を留守にしているので、事務所内には私と佐原さんの二人だけだ。
唐突にこんな質問をされたからなのか、佐原さんは愛妻弁当の卵焼きをもぐもぐと食べながらきょとんとした顔で私を見ている。しばらくしてようやく話が飲み込めたのかゆっくりと口を開いた。
「もしかして雛子ちゃん。別れた彼氏のことまだ好きなの?」
「いえ、まだ好きというか忘れられなくて。七年も付き合っていたから隣にいるのが当たり前になっていたというか……ふとしたときに思い出しちゃうんです」
答えながらコンビニの鮭おにぎりをぱくりとかじる。今日の私のお昼はこれだけ。引越し資金を貯めるまで節約を強いられているのでお昼はおにぎりひとつと決めている。
それをちびちびと食べながら、佐原さんが広げている美味しそうな愛妻弁当がさっきから羨ましくて仕方がない。
「そっか。忘れられないか」
佐原さんは箸を置くと、優しく私に頬笑みかけてくれる。