堅物社長にグイグイ迫られてます
「じゃあきっと奥さんも佐原さんののんびりとしたところに助けられることがあるんですね、きっと」

「そうかな？」

そうだといいね、と佐原さんは優しい顔で微笑んだ。

「羨ましいなぁ」

佐原さんの話を聞いていたら思わずそんな言葉がこぼれてしまった。

「私もそういう人に会えるといいけど」

「大丈夫。雛子ちゃんにもいつかは現れるよ……というか案外近くにいたりして」

「え？」

そのとき事務所の扉が大きく開いた。御子柴さんが事務所へ戻ってきたようだ。

「おかえり悟」

「お帰りなさい」

私と佐原さんが声を掛けても御子柴さんは何も答えず窓際の自席へと向かう。カバンを放り投げるようにデスクに置くと、イスに腰をおろし背もたれによりかかった。天井を見上げて目をつむり深く長い息を吐く御子柴さんは何だかお疲れの様子だ。

目頭のあたりを手でもみながら御子柴さんがイスに座り直す。そして辺りをきょろきょろと見渡し、その視線が私をロックする。

「おい、百瀬」

低い声で名前を呼ばれたので「はい」と返事をしてから立ち上がる。
< 147 / 300 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop