堅物社長にグイグイ迫られてます
彼は飲み物をテーブルに置くとカバンからノートパソコンを取り出す。そしてカタカタとキーボードを打ち始めた。

「えっと、御子柴さん、どうして……?」

私が問いかけると、御子柴さんはパソコン画面を見ながら答える。

「雨宿りに寄ったらここしか席が空いてなかったんだ。で、お前の姿が見えたから隣に座っただけ」

その言葉にふと店内を見渡すと確かに満席状態だ。それから窓の外へ視線を向けると、行き交う人たちの手には傘が握られ、薄暗い中でも分かるくらいにアスファルトがしっとりと濡れていた。

いつの間に雨が降ってきたのだろう。私がここへ来たときはまだ降っていなかったのに。念のため常に鞄の中に折り畳み傘を忍ばせておいてよかった。

「あなたはたしか雛子の会社の上司の方ですよね?」

気が付いた俊君が声を掛けると御子柴さんは静かに「ああ」と頷いた。するとそれを聞いた美弥さんの視線が御子柴さんへ向けられる。

「すみません。私たち今大事な話をしてるの。関係ない人は席を外してもらえませんか」

そんなトゲのある美弥さんの言葉に、御子柴さんのキーボードを打つ手がピタリと止まった。

「うちの大事な事務員が泣かされそうになってるんだ。関係ないはずないだろ」

そう言って、御子紫さんもまた美弥さんを睨み返すように見つめる。
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