堅物社長にグイグイ迫られてます
考え事をしていたせいで道を間違えるなんてうっかり常習犯の私ならあり得るかもしれないけれど、御子柴さんに限ってそんなおっちょこちょいなことは絶対にしない。だから雨宿りも嘘。

ちらっと向かいの席の御子柴さんへ視線を送ると、普段の仕事中のときのように難しい表情でキーボードを打っている。

「なに見てんだ」

あまりにもじっと見過ぎていたせいか、私の視線に気がついた御子柴さんが顔を上げる。

「い、いえ。何でもないです」

私は慌てて視線をそらすと、飲みかけのブラックコーヒーに口をつける。それはすっかりぬるくなってしまっていたし、慣れない苦さに思わず顔をしかめてしまう。私は、カップをそっとテーブルの上に置いた。

そういえば以前、私の荷物を取りにアパートへ戻ったときも私を心配して御子柴さんが一緒に付いて来てくれたことがあったことを思い出す。私の勘違いじゃなかったら今回もきっと同じ理由で御子柴さんはここへ来てくれたのかもしれない。

私がしっかりと俊君と向き合って別れ話ができるのかを心配してくれて、雨宿りなんて嘘をついてまで様子を見に来てくれた。そして、美弥さんにきつい言葉を浴びせられた私を見兼ねて隣の席に来てくれたのかもしれない。
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