堅物社長にグイグイ迫られてます
「ありがとうございます」

御子柴さんを見上げてお礼を言うと、またひとつひんやりとした風が吹き抜けていく。御子柴さんが両手をズボンのポケットに入れたのを見て、もしかして私に上着を貸してしまったので寒いのでは?と、ふと心配になる。

「御子柴さんは大丈夫ですか?」

そう声を掛けると「俺の心配はいらん」とぶっきらぼうな言葉が返ってくる。そして、

「それよりもお前に風邪でも引かれたら困る」

ぽつりとそう言うと、御子柴さんはプイと顔を背けてしまう。そして長い足を前に出して歩き出した。

「あ。待ってください」

置いて行かれないよう御子柴さんの少し後ろを付いて行く。目の前にある大きな背中を見つめながら、ふと三日前、彼に言われた言葉を思い出す。

『惚れてる女に泣きながら助けを求められて放っておける男がいるわけないだろ』

瞬間、ポッと顔が赤くなる。

あれはどういう意味だったんだろう。

惚れてる女ってやっぱり私のこと?

でも、どう考えても御子柴さんが私のことをそういう風に意識しているようには思えない。
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