堅物社長にグイグイ迫られてます
「お前と初めて会った日も、親父に電話でさんざん辛辣な言葉を浴びせられて俺は相当参ってた。追い込まれた俺は、やっぱり親父の言う通り御子柴商事を継ごうと思って、建築家という仕事も事務所も手放す気でいた」

でも、と御子柴さんは言葉を続ける。

「そんなときお前に会った。落ち込んだ気分のまま事務所を出ると、ビルに貼ってあったうちの事務所の求人表のチラシを真剣に見つめているお前を見つけた」

――――私も三年前のその日のことを思い出してみる。


『その求人に興味あるのか?』


あのとき御子柴さんは私にそう尋ねてきた。だから迷わずに頷いて、


『こちらで働かせてもらえせまんか?』


と、御子柴さんにすごい勢いで詰め寄った気がする――――

「そのときのお前の言葉にふと我に返ることができた。俺は御子柴建設設計事務所を潰したらいけないんだなって。お前がそう気付かせてくれた」

「私がですか?」
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