堅物社長にグイグイ迫られてます
「佐原さんに連絡入れてきますね」

打ち合わせ中だろうからたぶん連絡を入れたところですぐには見てもらえないとは思う。でも一応、浮田さんがいらしていることをメールで伝えておこうと思い自席へ戻ろうとすると、浮田さんに手首を掴まれてしまいその場から動けなくなる。

「雛子ちゃん。待っている間、俺の話し相手してよ」

「……分かりました」

浮田さんは佐原さんの大切なお客様でもあるので、その彼にぞんざいな態度を取るわけにも行かず頷いてしまう。これも毎回のことだ。そして浮田さんとの会話の内容といえば自分の自慢話がほとんどだ。

ファッション系の大学に通っていた当時のことや某有名ブランドでデザイナーをしていた頃のこと、パリに留学をしていたときのこと、自分のブランドを立ち上げたときのこと、などなど。

以前聞いた話を会う度にまた一から聞かされるので私は正直この人と話すのが苦手だ。でも佐原さんの大切なお客様なのでぐっと我慢する。

「えっと、でもその前に佐原さんに連絡だけしてきますね」

そう答えてから私はさっと自席に戻り、デスクの上に置いてある自分のスマホを手に取った。素早く佐原さんに向けてのメッセージを作る。

このまま浮田さんと事務所で二人きりは気まずいのでなるべく早く帰ってきてください佐原さん……!

という最後の一文はやっぱり消去してから、佐原さんのスマホ宛てにメールを送信した。
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