堅物社長にグイグイ迫られてます
「いえ、違います。彼氏とは別れたので……」

正直にそう打ち明けたあとで後悔した。このまままだ彼氏のいる設定でいた方が食事の誘いを断りやすかったかもしれない。

「え！？雛子ちゃん、彼氏と別れたの？ホントに？えっ、ということは今はフリー？」

　浮田さんがなぜか興奮したようにソファから身を乗り出して尋ねてくる。そんな彼に若干戸惑いつつも「はい」と小さな声で返事をした。

「よしっ！これでようやく俺の番がまわってきたぞ」

そう声を張り上げると、浮田さんがなぜか私の隣の席へと移動してくる。そしてすっと私の肩に腕を回してきた。

瞬間、体にぞわわわわ～と冷たいものが一気に駆け巡っていく。

さらに浮田さんが私の顔を覗き込むように自分の顔を近付けてきた。

「俺、雛子ちゃんのこと本気で狙ってもいい？」

「え？……えっと」

突然のことにどう対応していいのか分からずにいると、事務所のドアが静かに開いたのが分かった。

もしかして佐原さんが戻ってきてくれたのかも！

そう思ってそちらに視線を移動させると、

「――戻った」

そこから姿を現したのは御子柴さんだった。
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