堅物社長にグイグイ迫られてます
「お、おかえりなさい、御子柴さん」

そう声を掛けると彼の視線は一度私のデスクへと向かい、けれどそこに私がいないことに気が付いたのか事務所内を見渡したあと応接スペースへと移動する。そこで視線がピタリと止まり、ソファで密着して座っている私と浮田さんを見るなり分かりやすいくらいに眉をひそめた。

瞬間、浮田さんの手が私の肩に回っているという今の自分の状況を思い出してマズイと思った。特にやましいことはしていないけれど、二人きりの事務所内でこの態勢は誤解されても仕方がない。

ど、どうしよう……。

すると、私の肩に回っていた浮田さんの手がゆっくりと離れていき、まるで何事もなかったかのように御子柴さんに向かって微笑んだ。

「こんにちは。お邪魔してます、御子柴さん」

「どうも」

浮田さんの挨拶に御子柴さんは短く答えると、私たちからぷいと視線をそらした。

そのまま窓際の自席へと向かいイスに腰掛けると、カバンからノートパソコンを取り出してさっそく仕事に取りかかる。

その表情がなんだかいつもよりもさらに不機嫌に見えたし、キーボードを打つ力がいつもよりも強い気がした。
< 214 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop